若葉・九条の会ニュースレター No.50      
                          2013/4/18 発行
                             ホームページhttp://wakabaarticle9.com/
                    代表 木村 忠彦043-255-3904                 
 
 
2013年度が、桂敬一さんの記念講演でスタートしました。(2013/3/31)
◆ 安倍自民党政権による「改憲」は「壊憲」。明治憲法より酷い<立憲主義>の否定。今の憲法を無くして更地にして、今の憲法を逆立ちさせたものを作るというとんでもない「自民党憲法改正案」。 
◆ これを許すわけにいかない。7月の参議院選に市民が勝つにはどうしたらよいか。 橋下氏が恥も外聞もなく「俺たちが公明党の替りをする」と言っている。彼らに2/3 を取らせない。できれば過半数も取らせない。これに負けると 日本はアジアの国々の信頼を失う。この戦いに今までのやり方だけで選挙をやって済むかという問題がある。
◆ 市民的要求を柱に選挙を戦う。
  1)脱原発を前に進める。
  2)沖縄を取り戻す。
  3)日本の「99%」の生活を立て直すーー金融緩和で儲かるのは1%。
  4)憲法を活かして戦う。「立憲主義」「国民主権」(主権在民)の実現。
 
講演中の桂敬一さん
<講演録を当50号巻末に掲載しました> 
 
全国シール投票に今年も参加します。
と き:2013年4月28日(日) 午後2時~4時
    雨の時は5月3日(金) 午前10時30分~12時30分
ところ:モノレール・動物公園駅 陸橋上
テーマ:憲法9条  あなたは 「 守る? 変える? 」
道具は世話人会で用意します。どなたでもご参加ください。
 
◇ 5月26日(日)定例会13:30~16:00
民意を反映する選挙制度は?日本で「国民主権」を実現するには? 
問題提起:弁護士 山田安太郎さん
 
交流ひろば
桂敬一さんの講演を聞いて    長沼原・小柴千鶴恵
 桂さんは、まずは、参議院選に勝つこと“護憲から活憲へ”と結ばれました。
 日本国憲法前文を諳んじておいででしょうか。私は言葉の難解さもさることながら、その美しい日本語と崇高な精神に感動をし、未来を導く大切な宝物として、その前文を長く張っておきました。この思いは1947年生まれの私にとって東京がまだ混乱の中にあった断片的な生活の風景を覚えていたカらかも知れません。
 若い教師は、この憲法が在る限り君たちは戦場に行くことはないと語りました。戦死をした人たちの墓はまだ新しく、多くの墓石を見ながらの通学でした。
 今、尖閣、北朝鮮問題も後押ししているのでしょうが、国防は大切よと言い憲法改憲に抵抗を感じない世論が出来上がっているような不気味さをいだきます。戦争をする国にはさせない、この一点で母親は我が子のために、若者は恋人ために、私は孫の未来のためにと身近なところから会話を始め参議院選へ向かいたいと思います。6月には大きなうねりに合同したい。大江健三郎さんではありませんがそう決意しています。9条バッヂも有効でしょうか。
 
『安倍政権の企む日本改造の正体』
 若葉・九条の会の講演会に参加して   習志野市・吉川 健
 3月31日わたしは若葉九条の会の講演会『安倍政権の企む日本改造の正体』に参加した。その日は千葉市公民館を考える会のイベントもあって当初はそっちに行く予定だったのだが憲法と公民館のどちらが重要か考えて憲法の方にした。
 最近は他の九条の会の勉強会に行ったり、護憲関係の講演会で話しを聞きに行く事が以前に比べて多い。なので今回の桂敬一氏の話の内容も今まで他で聴いた話と一部重なる部分があった。が、勿論始めて聞く興味深い話しもあった。新聞を読まなくなったので各新聞社の現状と惨状なども分かってよかった。
講演会や勉強会での質疑応答は参加者の考えが分かっていつも面白いと思うのだが、今回も良い意味でも悪い意味でも面白かった。それについてはいつかまた書きたい。
 
6月2日(日)はNO NUKES DAY
☆ 東京芝公園23号地 12:00~
つながろうフクシマ!
さようなら原発集会
 大江健三郎・落合恵子・鎌田慧
デモ行進後国会周辺へ合流
☆ 明治公園 11:00~ ブース他 デモ行進後国会周辺へ合流 原発をなくす全国連絡会
☆ 国会周辺 16:00~  首都圏反原発連合  国会包囲 17:00 国会前集会
      19:00 終了
原発  NO!    日本国憲法 YES!
核兵器 NO!    軍縮       YES!
NO  WAR !        YES  PEACE ! 
 
韓国の脱原発団体のネットワーク
「核なき世界のための共同行動」からの連帯メッセージ
 2年前、日本で福島原発事故が起き、約16万人の人が故郷を奪われました。避難の最中に命を落とした病弱者やお年寄り、愛する土地を奪われ絶望の果てに自殺に追い込まれた農民、あまりに過酷な事故収拾作業の最中、心筋梗塞で命を落とした労働者、避難先で誰にも看取られず孤独死で亡くなった人など原発事故によって奪われた尊い命に哀悼の意を改めて表します。私たちは、福島原発事故を16万人が避難を余儀なくされた1つの事故ではなく、故郷を奪われ避難をするという1つの悲劇が、16万回起きたと考えたいと思います。被災者1人1人の声を丁寧に聞き原発事故とはどういうものか記憶したいと思います。子どもに将来健康被害が起きないか日々苦悩する母親の涙から、将来好きな人と結婚できるだろうかと心配する女の子の表情から、避難区域にもかかわらず20キロ圏内に住み続けるおばあさんと、彼女を介護する娘の執念から、家族を避難させ、1人福島に残りながら寂しくカップラーメンを食べる男性の孤独から、避難したにもかかわらず生活費を稼ぐために福島第1原発の収拾作業へ向かう労働者の使命感から、原発から50キロ離れ、原発の恩恵をまったく受けてこなかったにも関わらず大事な農地を汚されながらも、なお独自の品種を守り続けようとする飯舘村の農家の闘志から、原発事故が何を引き起こすのか考えて行きたいと思います。福島のある女性が「私たちは今、静かに怒りを燃やす東北の鬼です」と言ったのを記憶しています。ここにいる参加者の皆さんも子どもたちを守る守護者となり、政府や東京電力の責任を問い続ける勇者となってほしいと思います。避難して安全な環境で子どもに教育を受けさせようという郡山の集団疎開裁判の闘い、事故の責任者に刑事裁判を求める福島原発告訴団の闘い、原発再稼動を阻止しようと官庁や電力会社で毎週行われている闘いなど原発事故に立ち向かい、原発のない日本を実現しようと弛みない努力を重ねる皆様を心から応援しています。事故が起きた日本だからこそできることもあると思います。厳格な避難基準の設置、被爆労働者への補償制度の充実、しっかしりた防災体制の実現など放射能の危険性を十分理解した基準や制度作りに邁進し、放射能から人の命を守るモデルを提供してと思います。
 そしてもう一つ、日本の脱原発運動にお願いがあります。自殺された酪農家の奥様はフィリピン人だと聞きました。心筋梗塞でなくなられた事故収拾作業員の奥様はタイ人だと聞きました。それだけを見ても事故の被害者は日本人だけでないことは明白です。そして在日の方々もたくさんおられます。日本人だけのための脱原発運動ではなく、世界のみんなのための脱原発運動になってほしいと思います。みなさまの脱原発への情熱と努力が実り豊かな成果をもたらし、生命を大事にし、多様性を尊重する日本社会になることを心より願っております。  
                                                                 2013・3/9      核なき世界のための共同行動
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おでかけ情報
○地域九条の会交流会
 4/26(金) 14:00~15:00
  四街道市「四街道公民館」2F
 
▽全国シール投票
「憲法9条守る?変える?」
4/28(日)14:00~16:00
千葉都市モノレール動物公園駅陸橋
「若葉・九条の会」主催
 
♯♭ピースキャンドル
平和のうたを歌っています。ご一緒に歌いませんか。月1度・第4土曜日
夕方6:45~ 4月は27日(土)
JR千葉駅クリスタルドーム
 
▼憲法記念日の集い
5/3 (金)祝憲法記念日
開  場:13:30   開演:14:00
ところ:千葉市文化センター大ホール
 043-224-8211(千葉市中央区)
記念講演「憲法を草の根で守るとき
        ―沖縄で考える」
沖縄大学客員教授・弁護士小林武さん
参加費:500円
主 催:千葉県憲法会議
 
◇ 憲法を何としても生かそう5/12集会
5月12日(日)13:00~16:00
「解釈改憲から明文改憲へのねらい」
講演:弁護士 広瀬 理夫
京成労働会館(京成津田沼駅5分)資料代500円 主催:憲法を活かす会
 
◆ちば市民放射能測定室「しらべる」 設立1周年 講演会&写真展
 5月12日(日)
 会場:きぼーるにて同時開催
  森住卓写真展 10::00~ 無料
  講演会「福島の子どもたちは今」
  吉野裕之さん 14:45~16:30  資料代 300円
◇5月例会 
5/26(日)13:30~
「選挙制度」について
  問題提起:山田安太郎さん
 みつわ台公民館   無料
 
■アースデイちば
 6/2 (日)10:30~16:00
 稲毛海浜公園にて
エコ・環境・反原発など出店募集中
<せんきょCAMP>があるよー!
おもしろそう、行ってみよう
 
□千葉発!選挙で日本を変えるつどい 
 6/8  (土)夕方 18:30開演
  ・松元ヒロ ライブ
  ・リレートーク
会場:千葉市文化センターアートホール
主催:「千葉発!選挙で日本を変えるつどい」実行委員会
前売券 1000円 高校生以下無料
メール このメールアドレスはスパムボットから保護されています。閲覧するにはJavaScriptを有効にする必要があります。
FAX 043-223-6651(関根)
TEL090-9304-1030(鎌倉)
 
若葉九条の会・憲法を読む会創立8周年記念講演記録
『安倍改憲政権の企む日本改造の正体』
―国難が生む”ファシズム“にどう向き合うか-
講師:桂 敬一氏(マスコミ九条の会、元東京大学教授)
日時:2013年3月31日(日)午後1時30分~午後4時
場所:みつわ台公民館講堂
主催:若葉九条の会・憲法を読む会
 
1. 安倍自民党による「改憲」の本質―明治憲法より酷い立憲主義の否定
◆「国防軍」「集団的自衛権」より立憲主義の否定こそ大問題
―国家・政府を縛る憲法が、国民を縛る憲法に変えられてしまう
 
安倍首相がマスコミのうえで、なぜこんなにも注目を引いているのでしょうか。昨年12月の総選挙で、小選挙区制にはおかしいところがあるが、とにかく数の上では大勝ちしたことが、大きく影響している。さらに、その勢いを駆って進めるアベノミクスと称する経済政策が成功している、ともてはやされている。これでは、安倍政権の危険な体質が見過ごしにされてしまう。その陰で改憲の策動が進められているのを、きちんと伝えていないところに、メディアの大きな問題があるといわざるを得ない。
新聞は確かに、自民党が九条を変えてしまう―戦力を持たないとする条項をなくし、「国防軍」を創設すると言っている、とは報じました。しかし、もっと大きな問題を報じていない。自民党の憲法改正案をよく見る必要があります。その全条を、現行憲法と逐一突き合わせてみると、それがよくわかる。早稲田大学の水島氏が「この改憲の“改”は破壊の“壊”だ」といっていますが、それよりも酷い。“壊”だけなら跡は更地ですが、壊しながら同時に、すぐ今の憲法を逆立ちさせたものに置き換えてしまうというのが、自民党案です。
 現行憲法は第13条で「すべて国民は、個人として尊重される」と規定し、その「個人」について、「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする」と定めています。ところが自民党改憲草案は、この「個人として」を「人として」に書き替えてしまう。「個人」は、そこらのおじさん、おばさんも、偉い人も、みな同じ「個人」という観念です。ところが「人として」となると、人として道徳をわきまえ、人格も良くてとか、いろいろ意味が混じってくる観念です。あいつは人でなしだとか、あの人は良くできた人だ、というような意味が伴う。そういう価値観を、こういう狡い形で入り込ませている。
それから、自由や幸福を追求する権利についても、「公益」すなわち国家の利益、「公の秩序」に反しない限りの保障だ、と書き込んでくる。おかしなことです。さらりと言っているようですが。現行憲法では「公共の福祉に反しないかぎり」なんですよ。「公共の福祉」とは、相見互い、お互いのあいだがうまくいくことを意味する。そこではお互いの利益がぶつかり合うことも生じるが、他人の権利を阻害するようなことがあってはならない。それが「公共の福祉に反すること」の意味です。「公共の福祉に反しない限り」とは、市民同士の間の矛盾の問題です。これを、国家の利益、公の秩序を阻害するかどうかという問題にすり替えるのは、とんでもない話です。しかも、「人としての権利」という制約もかぶせている。すべての国民の平等の権利というものは認めない。自民党改憲案がそういうものだから、早稲田大学の水島教授はこれを“壊憲”案だというわけです。
この第13条こそ、現行憲法の国民主権、立憲主義の柱です。それは、憲法は国民を縛るものではなく、国民主権の擁護を基本的な目的とするものだとし、国家がこれを妨害するようなことは許されない、と言っているわけです。国を縛るものが憲法なんです。これが立憲主義です。ところが、そこのところをさりげなく逆転させようとしているのが、自民党改憲案なのです。
 ついで現行憲法の第99条も見ておきましょう。これは、国家に憲法擁護義務を負わせる規定で、「天皇又は摂政および国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負う」とだけ書いてあるものです。ところが、本条に該当する自民党改憲草案の第102条は、新たに第1項を付け加え、「全て国民は、この憲法を尊重しなければならない」と規定します。まず国民に憲法の尊重を義務付けるわけです。「公益」「公の秩序」という国家の利害や目的の優越性を規定するのがこの憲法なのだから、まずこれを国民に守らせよう、というわけです。国民は全て、この憲法を守れということになる。そして第2項で、「国会議員、国務大臣、裁判官その他の公務員は、この憲法を擁護する義務を負う」とする。さすがにこの部分を消すわけにはいかない。しかし、この憲法擁護義務から、「天皇又は摂政」が外されていることにご注目です。
 そして思い出してください。現行憲法は第1章で「天皇は日本国の象徴である」と規定しています。天皇に政治性を負わせない宣言が明らかにされたのです。しかし、自民党改憲草案第1章は「天皇は日本国の元首であり」とするのです。これでは、立憲君主制を具体化した明治憲法へと還るに等しい。自民党の改憲構想は、天皇を元首にいただく国家体制を整え、それを国民に護持させるためのものだ、と言わざるを得ない。
 こういうものが出てきているのに、総選挙前に、自民党の本質はこういうところにある、というようには、どの新聞も書いてない。これは非常に大きな問題だと思う。マスコミがちゃんと報じ、論じてくれなければ、国民はこういうところまでなかなかわかりません。何となく、自民党は改憲をやるんだろう、九条がなくなるのかな、ぐらいにしか考えられない。しかし、現実にはとんでもないことが起きようとしている。そのなかに安倍自民党の危険な本質が潜んでいる。
 私が、明治憲法に戻るといいましたら、樋口陽一先生という憲法の大家が、「桂さん、それは自民党に好意的に過ぎる。これは明治憲法より酷い」と言われてしまいました。明治憲法は、条項に入る前に天皇の「告文」と「憲法発布勅語」がついており、これは酷いが、憲法本体は、美濃部達吉の天皇機関説も出てくるように、天皇を一つの機関として位置づける考え方があり、ヨーロッパの近代立憲主義をしっかり反映している。それに比べると、自民党の改憲草案はそうした原則性が崩れており、ずっと酷い、と樋口さんはおっしゃるのです。全くその通りだと思います。
 私は、敗戦の時に小学4年生でした。今77歳ですが、教科書「新しい憲法のはなし」を中学で習うことになった2回目の学生です。そのせいで、今でも現行憲法のことを、「新憲法」と言ってしまいます。読売新聞や自民党は、自分たちの改正案でこれからつくるものを「新憲法」と呼んでいます。私のいう新憲法では、国民の3大義務とは、勤労、納税、自分たちの子ども達に義務教育を受けさせることの三つです。しかし、「国防軍」ができると、国民皆兵というか、兵役の義務が出てくる可能性があります。男女同権ですから、女性も対象になるかもしれない。アメリカでは、ベトナム戦争の時は上院議員の子どもでも兵隊に行かねばならない徴兵制だったけれど、今はその必要がなくなり、志願制になっています。深刻な格差社会が出現、貧乏人はろくに学校にも行けない。就職口もない。そういう若者や移民が沢山いて、先の見込みがないものが兵隊になるので、それで足りる状態なのです。日本の場合も、国防軍になっても、いきなり徴兵制にはならないかもしれない。その代わり、貧乏人はアメリカと同じように、志願兵の道しかなく、兵隊になったあと、運がよければ大学に行けるかもしれない。しかし、運が悪ければ、戦争で命を失うことになる。
 このような新しい状況の中で、改憲ということが策されているのに、それが当の国民にちゃんと知らされていないところに、非常に大きな問題があると私には思えます。
 
 
◆マスコミは安倍自民党改憲草案の危険な本質を衝いていない
 
 資料の1[東京新聞3月1日朝刊こちら特報部『自民改憲草案を読む』]を見てください。選挙が終わって、千葉でも、もう朝日新聞はダメだ、東京新聞の方がよいという声が多いようですが、この東京新聞の記事は、法律家養成の「伊藤塾」主宰者、伊藤眞さんに、現憲法の柱、良いところをきちっと語らせ、私が先ほど申したようなことをわかりやすく問題提起しています。これだけ具体的にしっかり書いたものは、ほかの在京新聞にはない。ところが、東京新聞もどちらかというと、朝毎読、日経・産経などの全国紙と比べれば、関東地域の地方紙ですが、各地の地方紙を見ると、ちゃんとものをいっている新聞が結構ある。河北新報という、仙台に本拠を置く宮城県の県紙ですが、この新聞の2月23日の社説には感心しました。憲法の改正手続きを定めた憲法96条をまず変えようと、国会の中で、自民党だけでなく、民主党の一部、維新の会、みんなの党とかも一緒になって、憲法96条改正議員連盟」というのをつくりだしている。「憲法本体を変えるということは、そんなに簡単に手を付けてはいけないが、96条は改正手続きだ。憲法を良くするために改正しようとしても、衆議院も参議院も3分の2以上の多数にならないと発議できない、というのはおかしい。発議ぐらいは過半数以上でできるようにし、みんなが自由に腹を割って話合いできるようにして、憲法を良くしていけるようにしよう。そういう理屈で改憲に動き出しているわけです。しかし、このインチキは見え見えですね。それはとんでもない話です。そもそも政府をつくる与党というのは、衆議院で過半数を占める存在です。したがって、改正発議条件が過半数でOKとなったら、国会決議は過半数でいいのですから、あとは事実上、政府が勝手に改憲できるようなことになってしまうわけです。この点について河北新報は、“国・政府を縛るのが憲法というものであるのにも係らず、国がやりたい放題やれるようにするために96条を変えようというのは、基本的に憲法理解を間違えている”と書いて、批判しました。
「たった3分の1を超える国会議員の反対で発議できないのはおかしい。そういう(改憲に消極的な)横柄な議員には退場してもらう選挙を行うべきだ」ともいってきた安倍さんに対して、河北新報は、「参院選を『憲法とは何か』という根底的な問いをめぐる国民的議論の場としなければならない。『横柄な議員』とは誰のことを言うのか、見極めるのは私たち国民である」と、痛烈な批判も加えています。これは立派な社説です。これぐらいのことは、在京の新聞にも言ってもらいたい。しかし、そうなっていないのが、現実です。
 
 
2.「アベノミクス」の及ぼす大災厄―民は貧に喘ぎ、国は米国の属国に
◆安倍政権は経済政策の「成功」でどこまで人気をのばせるか
 
つぎに、安倍首相の人気のわけを考えてみたい。なんとなく、経済政策で成功しているからかな、とお思いの方もいらっしゃるのではないですか。毎日毎日の新聞が「アベノミクス」の成功を騒いでいますから。しかし、新聞はそれだけじゃない。安倍政権の経済政策というのを、消費税引き上げと結びつけて語っている。それは、野田政権の時からのことです。新聞はそろって野党の自民党に、消費税では野田内閣に協力せよ、といってきた。その結果、両者協力の下、消費税は最初8%に、次10%にと、2回も引き上げられることになり、この財源増加効果を、安倍政権がちゃっかり頂戴することになった。そういう状況を作り出すのに、どの新聞も協力したのです。確かにここでも、地域住民の意向に敏感な地方紙は反対したところがありますが、全国紙はほとんど例外なく賛成しました。財政赤字の問題を考え、財政政策上やるべしという議論です。税と社会保障の一体改革が増税の大義名分だったわけですが、その後、社会保障のほうに税の増収分がどのように回されるのかの話はほとんどない。むしろ、生活保護基準の切り下げなど、社会保障は冷遇されているのが実情です。
 それからTPP(環太平洋経済連携協定)参加問題がある。野田政権時代からの懸案ですが、安倍政権になって、ぐんと参加の方向に進みだした。そして、これについてもどの全国紙とも、TPP参加急ぐべし、です。この問題では、農業問題など地元の問題を抱える地方紙は、強力に反対するところが多い。全国紙はそろって、まごまごして遅くなり、アメリカに見限られたら大変だ、早く参加しろ、と急かすばかりです。
 こういう状況のなかで安倍政権は政権を取ると、俗に“三本の矢”という経済政策を打ち出した。第一の矢が大胆な金融緩和。要するに、日銀にどんどんお札を刷らせ、金詰まりをなくしてデフレから抜け出し、ある程度の物価高、金余り状況みたいなことにして、景気を上向かせるというのです。実際に株が上がった。為替も、円安に転じてきたために、輸出も増えてきたと、いっていますね。しかし、これが本当にいいことなのかというと、私にはそうは思えない。先行きおかしくなる原因ができるだけだ、と心配しています。
 まず金詰りということですが、我々が金を持っていないだけで、世界も日本も、金融界は「過剰流動性」、一口にいうと、カネ余りなのが実情です。具体的にいえば、日本では90年代の初め、バブルが弾けて金融危機に陥った。この時、政府は公的資金の注入で銀行を助けましたが、その金を銀行はまだ返しきっていず、投機の場にだぶついて残しているのが実態です。2008年のリーマン・ショックではアメリカの金融界が同じような危機に陥り、米政府も公的資金注入をして銀行や証券会社を助けた。その結果、アメリカでもカネ余り状態が出現、余ったお金が投機の場にたくさん出回り、儲けの機会を狙っている。総じていえば、内部留保をたくさん貯め込み、財テクに大わらわな大企業も含め、グローバルなギャンブラーたちは、博打の元手をたくさん持っていて、どこに賭け金を張ったらいいかに困っているのが実情です。そういうカネは、雇用とか賃上げとか、投資、国への税金支払いや社会保障の負担など、実体経済の中には回ってこない。グローバルな投機市場を徘徊しつづけ、自国の国民経済の還流システムには入ってこないんです。
彼らは、自分たちの貯め込んだ巨額のカネを、国に課税対象として捕捉されるようなのろまなことはしない。「オフショア」とか「タックス・ヘイブン」という言葉を聞いたことがおありでしょう。たとえば、カリブ海やその周辺にはケイマン諸島、バミューダ諸島など、以前は欧米先進国の植民地で、現在はそれらの海外領土になっているところがあるが、そういう島の現地政府は、そこの地元銀行への預金は匿名でOKとし、課税もしないという制度をもっている。海外企業がそこにペーパーカンパニーをつくっても、課税しない。これが「タックス・ヘイブン」です。税金逃れができる天国という意味の言葉です。ここにカネを置いておけば、いつでも自由によそに博打を打ちに出ていける。そして、それで儲けたカネもそこに置いておけば、自国の税金は払わないですむ。
これはご存じでしょう。AIJという名前の投資コンサルタント会社が、たくさんの国民年金基金組合から保険料の積立金を預かり、これをケイマンの自分のペーパーカンパニーに貯めておき、ヘッジファンド(ひとからお金を預かって運用、それを殖やしては手数料を受け取る業者)に預け、大きく殖やそうとしたけれど失敗し、客の年金基金に元金も返せなくなった話です。AIJという会社は詐欺罪とされ、破綻しました。そうすると、AIJにお金を預けてきた年金基金組合もやっていけなくなり、解散のやむなきに至るという事態が生じた事件です。国民年金基金というのは、会社の年金制度だと思っている人が多いけれど、実は公的年金です。60年代の半ば過ぎ、大企業が、自社で集めた保険料を国に納めるより自分で運用したいと考え、国に年金保険制度を変えさせ、収入比例によって納入する保険料支払い分は企業内に留め置き、国に代わって自分で運用、国よりもずっと高い利益を出し、年金受給者への支払いを殖やす、ということで国に制度を変えさせ、国直轄の年金から出ていったのが基金組合なんです。しかし、公的年金であることには変わりありません。運用と支払いの一部を国から授権され、代行していたわけです。
こういう大企業の勝手な言い分を聞いて、公的年金を歪めたことや、小泉構造改革内閣が金融ビッグバンとやらで、銀行・証券・保険の区分を取っ払い、だれがどちらの仕事をしてもいい、コンサルタントも金融取引に手を出してもいい、というようなことにしてしまったことこそ、実はAIJ事件の根本原因です。ところが、マスコミは、AIJの社長が初めから企んだ詐欺事件だ、というような報じ方しかしていない。
小泉内閣の時代、経済財政政策担当・金融担当相、総務相などを務めた竹中平蔵さん、政府の規制改革委員会の座長を長く務めたオリックスの宮内義彦さんなどが、米英の金融ビッグバンを真似て、業域規制を撤廃、だれもがどこででも国際的なギャンブルがやれるシステムを、日本にも導入したわけです。だからアメリカの保険会社がどっと日本に入ってきた。一方、日本のAIJは海外に出て日本の投資家に儲けさせようとした。そして失敗したわけです。彼が失った金は、別のギャンブラーが持っていってしまった。そういう類いの金がいま、つぎはどの賭場で何に狙いをつけるか、世界中あちこちで唸りを上げ、大きく渦を巻いているのが実態です。彼らはお金を持っているんです。
政府の息のかかった黒田さんという財務省出の日銀総裁は、いくらでもお金を刷る、といっている。差し当たり物価を2%まで上げ、つぎのステップでもう2%上げるといっています。それだと4%以上の上げ幅になる。そうすると、株を持っている人は必ず儲かるといっていい。麻生さんの持っている株全体では、すでに何億もの評価益が出ている、と報じられています。株を持っている人はいい。しかし、株を持ってない人は、こういう儲けは関係なく、単に物価が上がるだけです。それが「アベノミクス」です。一方、経団連の米倉会長などは、ニタニタ喜んでいますが、それはそうでしょう。株は上がるし、輸出も多くなり、売り上げが増える。彼らは嬉しい。これが「アベノミクス」です。
 こんなことがずっとうまくつづくわけがない。ものの5~6年して、10%のインフレになったら、大変なことです。それでも10%で止まってくれたらいい。悪性インフレになったら、それこそ悲劇です。円も止めどなく下落していくでしょう。その場合の賭博師の本性というものも、頭に入れておく必要があります。株でも通貨でも博打うちは、先行き価値が上がるから、今買っておいてあとで売って儲ける、という行動を取るだけでなく、価値がどんどん下がる場合でも、先物取引であらかじめ高く売っておき、抜け目なく儲けるということをやるプレーヤーなのです。売買の対象は、株、通貨(為替)、国公債などの金融商品だけでなく、石油、大豆、トウモロコシ、小麦、米、絹、マユなど、多様な商品も博打の対象にされます。彼らは、上がっても、下がっても大儲けするわけです。こういう状況は、アベノミクスに必然的につきまとうリスクですが、それがやがて顕在化する確率はかなり高いと、私としては思うわけです。
 アベノミクスの第二の矢は、機動的な財政出動で、それによって景気を良くする、というものですが、これもインチキ臭い。なぜならば、昔の自民党がやってきたような公共事業、特に全国各地のゼネコンが喜びそうなバラまき公共事業ばかりしか、見えてこないからです。今は、東日本大震災に襲われた東北の復興費が十分に用意され、きちっと使われていかなければならないのに、復興費名義の予算の中に、他の地域や異なる災害に対する防災費などが潜り込まされていたりしており、かなりエグイことがやられています。公共事業費は総じて、伝統的に自民党の既得権といった構造的な特徴を色濃く備えていますが、そういう財政出動では、いくらやっても若者達の就業機会を増やすとか、あるいは派遣社員の人達を正社員にし、ちゃんと社会保険にも加入させ、最終的には退職金や年金がもらえるようにするとかいった効果、実体経済を活性化させる効果は上がらないのではないか、という気がします。国民経済の実質が強化され、国民生活が全般的に向上する目途が立たないのでは、機動的な財政出動といっても、インチキとしか思えません。
 第三の矢、持続的な経済成長の追求は、確かに成長を、国民総所得あるいは国民総生産で見るのであれば、インフレの数値が上がるのに伴い、それだけ伸びますが、その恩恵に浴するのは、やはり儲かる仕組みの中の、儲かる所にいる人だけの話であって、給料をもらってもそれが目減りする人や、ろくにお金が使えない人が増える限り、成長なんてことが起こるわけがない。この第三の矢、経済成長というのも、私は怪しいと思う。
 
 
◆TPPは経済・産業版の日米安保条約―日本はアメリカの属国へ
 
そして厄介なことに、こういう危ない体質の経済が、TPPというグローバルな体制に取り込まれると、日本はアメリカ型の格差社会になっていくのと同時に、ますますアメリカに頭が上がらない国になっていく。具体的には、輸入農産品に対する関税を日本がすべて撤廃させられたら、日本の農業は大変です。小麦、大豆、米などの農産品、牛肉、ミルクなどの酪農製品は、価格面で太刀打ちできず、農家はやっていけなくなり、消費者はアメリカやオーストラリアなくしては食っていけなくなる。勝機はある―農業経営の大規模化を図れ、なんてバカなことをいうメディアもありますが、カリフォルニアの米作は飛行機で種を播くんですよ。日本でやれる程度の大規模化で太刀打ちできるものではない。
 また、農業や自動車がたいへんだ、という話は種目別次元の問題ですが、TPPの規定の中には、ISDSという項目があり、これが重要な意味を持つことに注目する必要がある。Iはinvestor 投資家(外国からの進出企業家・投資家)、Sはstate(政府)、Dはdispute(争い)、最後のSはsettlement(解決)で、それは、TPPの協定下ではどの国も同じ通商・経済制度を内外の企業家・投資家に適用すべきで、もし外国企業が進出先の政府の規制等にルール違反をみつけたら、国際司法機関に訴え、差別的取り扱いをなくさせることができる、という仕組みを意味します。しかし、その同じルールというのが事実上、アメリカが主導しているグローバル市場における自由というようなもので、それですと、アメリカの医療保険を商品として扱う保険会社が日本に来て、日本の健康保険適用の医療も、適用外の高度先端医療も、アメリカのように全部まとめて保険商品にできるようにしろ、といって争い、結果的にそういうことになると、日本の健保制度、公的医療制度は壊滅しますね。似たようなことが、年金、介護、地方自治体の行政サービス・公共事業など、いろいろな分野で起こってくる可能性がある。現実にアメリカではそうなっていることが多い。
 オバマがようやく大統領2期目を迎える直前に、ある程度公的な健康保険制度を導入しました。保険会社が介在する仕組みなので、完全な公的健康保険制度ではない。それでも一定程度のメリットは出ています。そういうアメリカから保険会社が日本に来て投資行為をしようとするとき、日本の健康保険制度が邪魔になる。それでどういうことをするかといえば、日本の政府を訴えるのです。TPP通りにやってないじゃないか。アメリカがやっている通り、我々が自由に医療保険を取り扱えるようにやれ、ということになると思います。
どういう風にやるか。健保制度を擁護する医師会はつぶせない。そこで狡い手を考える。まず混合医療制度を導入させる。これは健康保険と、健保適用外=自己負担が生じる部分とを並立させる制度です。後者は高度先端医療を対象とする。医師への診療報酬は両方からということにすれば、医師だって高い報酬に惹かれていく。医師会も一枚岩ではいられなくなる。自己負担の部分を増やせるようにしていけば、何年か後には、金持ちはもう健康保険には入らない。貧乏人の医療費負担まで含まれる保険料は払いたくない―そんなことだったら保険会社の医療保険に入ったほうがいい、ということになる。こうなると、世界最高といわれている日本の、社会保障としての健康保険制度は、つぶれます。
 TPPという制度の下では、ことごとくそうなるんです。教育もそうです。日本の教育は圧倒的に公的教育のウェートが高い。そのおかげで、貧富の差によって生じる教育機会の不均等や教育内容の格差が、まだアメリカほどには大きくない。アメリカでは教育に関しても学資保険という保険商品があります。日本でもそういう積み立て保険がありますね。こういうものがどんどん増え、幅を利かすようになると、日本の公教育がつぶされてしまう危険も大きくなる。こういうことがあらゆる面で生じてくるおそれがある。そういう点で、ISDS が提起する問題や意味を、もっともっと重視する必要があります。
 私は、アメリカの資本主義はもうそんなに強くなくなってきたのだ、と思うのです。だから、他国の国民の消費力や生産力を当てにしなければならなくなった。そのことは、軍事力の面にも現れています。あれだけ沖縄に居つづけ、ひどいことをするというのも、もうアメリカが、自前の軍備で戦争する力を維持することができなくなったせいです。だから、できるだけ日本の基地を使いつづけ、軍事費も日本にできるだけ多く出させようとする。すでに日米合同訓練もさかんにやっているが、ゆくゆくは日本の自衛隊員、兵隊さんにもちょっと死んでもらおうじゃないか、そういうことになってきているんです。
 それと同じようなことが、経済の面で起こっているのがTPPではないか。日本に経済の負担をしてもらわなければ、アメリカはやっていけない。例えば、日本の自動車産業に関するアメリカの要求も、輸入関税を下げろというような要求ではなく、日本人はみな小型車を使いすぎるから、アメリカのつくれない小型車は規制し、できるだけ使えなくしろとか、日本の排気ガス規制の基準が厳し過ぎ、これをアメ車はクリアできないので、アメリカ並みに緩和しろとかいう要求を出してくる。そういうのをみていると、TPPというのは結局、日米安保と同じじゃないか、経済産業面での安保じゃないか、と思わざるを得ない。
こういうものに、なぜ新聞は早く参加しろというのか、正直いって理解できません。朝日など早くから、TPPをやれと繰り返しいってきました。自由なマーケットで、日本もどんどん成長していけるなんて書いてきた。TPPに入ると、何年か経てばGDPが何兆円増しになるなど、政府の予測発表をそのまま報じてもきた。そんなこと、なるわけがない、なったとしてもインフレでなるのだったら、まるで意味がない。それよりも、グローバルな市場での自由主義的な競争のやりたい放題は規制し、国際的な経済システム・財政システムを社会公共的なものに変えていくことが、必要になっている。ヨーロッパがいま、金融危機で非常に苦悩していますが、少なくともそういう方向を目指そうと、自力で頑張っているのは確かです。ところが、日本は、アメリカの言いなりになる方向に進みつつあるんです。
これも新聞があまり書かないんですが、もっと注目していいものにRCEP(Regional Comprehensive Economic Partnership 東アジア地域包括的経済連携。アールセップと呼称したりします)があります。これはアジア全体、ASEAN10か国とそれらのパートナーとなる、日本、中国、韓国、インド、オーストラリア、ニュージランドの6か国、合わせて16か国がトータルに、自分たちの地域的な共同利益を考えて経済協力の協定をつくろう、という動きです。2015年には発足するという構想が生きていますが、アジアに生きる日本は、こちらとの取り組みにこそ、もっと力を注ぐべきではないか。
 TPPは、アメリカを盟主とする色合いが濃く、よその地域経済協定に対抗するような性格が強い。第一次世界大戦の前も、第二次世界大戦の前も、強大な国が先頭に立って大きな国際経済ブロックの形成を図り、領土や資源をめぐって支配領域の拡大を競い合い、大きな経済覇権の獲得を目指しました。それが世界戦争を引き起こしたんです。アメリカのTPPのやり方というものも、そういう経済ブロックのやり方に似た面があり、こんなものに、日本が尻尾を振ってついていくだけでは、アジアの国々からの信頼は得られないでしょう。    
資料2 [3月16日付朝日社説『TPP交渉 ルールを担うには』]をご覧ください。安倍首相が3月15日、TPP参加方針の決定を発表しました。それを受けての社説ですが、日米が手を組んで中国を牽制するために役立つと、この方針に賛意を表するものです。相変わらずの日米中心主義です。ひどいのはNHKでした。3月15日夜のニュースウオッチ9は、60分中40分が安倍首相と差しのインタビュー。大越キャスターは首相を持ち上げるだけで、TPPの問題点を衝くなどのことはまるでしなかったのだ。メディアがこんな状態では、やがて大変な国難が日本を見舞うことになるのではないでしょうか。
 
 
3. 新手の“ファシズム”の特徴―民主的な社会の崩壊のあとにくるもの
◆安倍政権が自分で構築し、自ら縛られていく右翼人脈
 
日本の国難というものを考えるとき、私は、もう一つ新しい要因が生まれているような気がしてなりません。たとえば、アメリカも行き詰まっていますが、まだアメリカの場合は、ある種の本場のデモクラシーというものの復元力が蘇り、有効に働くことがあり得る。「チェンジ」を国民に呼びかけたオバマが登場したのは、そういうものでした。ところが、日本では、失脚から蘇った安倍首相は、右翼バネしか持ち合わせていない人物です。彼が一番いいと思っているのは、明治維新をやった長州ですし、一番尊敬する人物は、あの国難の時に商工大臣をやっていた自分の祖父、岸信介氏なのです。その岸は戦犯であったが見事に蘇り、60年安保をやった。日本の凶悪な左翼を撃退し、日米安保体制を作り、日本の首相として初めてアメリカ大統領、アイゼンハワーと一緒にゴルフをし、パターを貰った。そういうおじいちゃんを彼は心の底から尊敬し、愛している。岸は本格的な右翼です。自由党の時すでに「押し付け憲法」反対、「占領憲法」反対の立場を旗幟鮮明に示し、現在の自民党改憲草案のもとになる案を作った人です。安倍首相が今度、オバマ大統領を訪問したとき、おじいちゃんがアイクから貰ったパターを持って行って、オバマに見せたというんでしょう。本当に馬鹿です。彼の頭の中にはその程度のことしかない。   
そういう彼がどういうことをやるか。資料3[アベノミクスと「教育再生」・改憲の安倍人脈]を見てください。これを見ると、つくづくいやになります。「アベノミクス」に誰が関わっているか。相変わらずのアメリカ一辺倒、規制改革・民活派です。それから、安倍首相は前首相だった2008年に「教育基本法」を改悪しました。教育基本法の中には、教育への政治の介入を禁止する条項があります。それは「国は教育に介入してはいけない」とするものでした。ところが安倍さんはこれを、「教育の中に不当な影響を与えるような介入」という書き方に変えた。そして、「例えば、日教組のような団体が介入するのを禁じるんだ」と明言したのです。この「改正」は教育基本法の根本を、完全にひっくり返すものでした。そして、こういうことの続きを、今度は憲法レベルでやろうとしているわけです。
 まずトップのブレーンを見ますと、内閣官房参与に浜田光一、本田悦郎など、彼が私淑するお師匠さん、「アベノミクス」をやれやれと言っている本家が顔を揃えています。次に経済財政諮問会議ですが。これには日銀総裁も入る。白川さんは中央銀行の中立性を守るのに頑張ったんですが、彼が退いて黒田さんが入った。黒田さんは財務省の回し者みたいな人です。安倍さんの先回り先回りをすればいい。伊藤元重という東大教授も、もともとインフレ目標論者で、読売新聞の社説と同じです。あとは財界人です。
 次の産業競争力会議は、細かいことをいろいろやるところですが、経団連や経済同友会のメンバーがずらりと入っている。また、一度死んだはずの竹中平蔵さんが生き返って、TPPへ入れとか構造改革をやれとか言っている。また楽天の三木谷浩史が入って、新しいデジタル商売のための規制緩和などでエンジンを吹かしている感じです。
 さらに規制改革会議の復活も決まっていますが、竹中構造改革の時に一緒にいた、政策大学院大学の太田弘子さんが入るようです。規制改革担当大臣の稲田朋美さんは、靖国神社万々歳の右翼中の右翼です。
 それから、教育再生実行会議というのは、改悪された教育基本法の右翼路線をこと細かく固めようというところです。大竹美喜さんというのはアフラックの最高顧問で新自由主義的な競争至上主義者です。河野達信全教連委員長は日教組の敵役です。佐々木喜一氏は成基コミュニテイグループという塾の経営者です。曽野綾子さんは君が代・日の丸大賛成で、沖縄戦の集団自決に軍の強制はなかった、と主張する方です。八木秀次は新しい歴史教科書をつくる会の元会長です。それから中央教育審議会は委員が半数入れ替わったのですが、その中にこわもてのジャーナリスト、桜井よし子さんが入ってきました。
 そして、第二次安倍内閣閣僚の改憲政治団体所属状況が問題です。閣僚19名のうち13名が「日本会議」のメンバーです。日本会議というのは、成長の家の肝いりでできた国粋的な超保守の団体です。こういう考え方の下で「日本を取り戻せ」なんてやられたらとんでもないことになる。それから「新憲法制定議員連盟」というのをつくっているんですが、ここに所属しているのは、安倍首相以下、8名の閣僚です。自民党改憲草案に陽の目を見せようとする面々です。さらに安倍晋三氏を会長とする「創生日本」という団体が国会の中にありますが、この団体は、2007年にできた保守系議員連盟が2010年に「創生日本」と名を変え、初めは自殺した中川昭一さんが会長でした。現在は自民党のほかに、維新の会、みんなの党、新党改革の議員もメンバーになっています。
 このように安倍氏を取り巻くというか、彼が使っている人たちは、その顔ぶれからもわかるように、恥も外聞もない、立派な右翼と言っていい方々が圧倒的に多い。
 
 
◆維新の会との連携強化はファシズムを養う土壌を用意する
 
 そして、このような自民党政権に今、維新の会が連携強化を狙って急接近しているわけです。新しい動きをみせようとしている。例えば3月30日の朝日夕刊に、日本維新の会の綱領の一部が載ったが、そこには「日本を世界からの孤立と軽蔑の対象に貶め、絶対平和という非現実的な共同幻想を押し付けた元凶である占領憲法を大幅に改正し、国家、民族を真の自立に導き、国家を蘇生させる」とある。これが維新の会綱領の改憲宣言部分です。
 これは、自民党の改憲草案の新バージョンに出てくる文言と瓜二つです。また、読売新聞の憲法改正試案、4回ぐらいリバイスされてきたものの中に何回も出てくる文言とも同じで、安倍首相の先を行くような過激な表現になっている。
 こういうものが全部一体となってつぎつぎに出てくると、日本は今、外国から軽蔑 
 
 されている、外国との紛争の脅威にさらされている、外国はますますけしからん態度になっている、という思いに駆られる人たちはいきおい、日本は力で対抗しなければ舐められてしまう、力で出て行かねば駄目だ、という変な危機意識ばかりが煽られることにもなる。そういう怒りや勢いばかりが高まってくるんですね。そういうとき、岸田外相のような立場の人は、中国との関係に触れる言動は、慎重に考えないといけないのに、例えばNHKの番組の中でも、中国は東アジア地域の脅威である、などと平気でいってしまう。自然に出てきてしまうんです。そして、これが一部の政治家だけのことでなく、みんな当たり前のようにこれに呼応する動きも出てくるようになる。このような排外主義的傾向の高まりは、ファシズムへの第一歩になりかねない。 
 
◆「在日特権許さない市民の会」の横行、内向する集団群
 
 最近、朝日がようやく記事にしましたが、新大久保にある、コリアンタウンとかエスニックタウンとか呼ばれる地区での在日朝鮮籍の居住者に対する排撃の動きは、無視できないものがあります。通りを挟んで在日の人や、タイとかベトナムの人たちも混じって、いろいろなお店を開いていており、日本の市民が喜んでそこを訪ねる、ちょっと面白い多文化的な環境のところです。食べ物も安くて美味しいし、いろいろなアジア人の風俗も面白いと、みんなが楽しみにして行きますね。
そこに2月頃、「在日特権を許さない市民の会」、俗に「在特会」と称する集団のメンバーがデモをかけるようになったんです。彼らは最初、千葉の方でビザなしで不法滞在していたフィリッピン人の一家が強制退去の処分を受けたとき、その家族が住んでいる町にいって、不法滞在者は出ていけとデモをかけ、騒ぎを起こしました。あと、サクラチャンネルというCSテレビで桜井という代表がアジテーションを行い、知られるようになってきました。アジの内容は排外主義的なものです。この連中がコリアンタウンで始めたデモは、ネットテレビがすぐ報じるようになりました。大がかりなデモではないのですが、プラカードに「朝鮮人首をつれ 毒を飲め 飛び降りろ」とか、「いい韓国人も殺せ、悪い韓国人も殺せ」などと書いてある。それから、シュプレヒコールでも、「ソウルを焼野原にせよ」とか「朝鮮人は殺せ」とか叫んでいるんです。ヘイトクライムとかヘイトスピーチとかいうもので、異なる宗教・民族や、同性愛の人、障害者などの社会的な少数者を排撃し、憎悪を掻き立てる言説を公然と流布する行為を指します。外国ではこれだけでも犯罪として取り締まりの対象になる。しかし、こういう行為が東京で、警察が許したデモとしてまかり通っているんです。
これ対しては、流石に一般市民の側は常識を備えており、「みんな仲良くしようぜ」とか、「外国人差別はやめよう」とか書いたプラカードを持って道路の両脇で掲げ、罵声を上げるようなことはいっさいせず、乱暴な奴が焼肉店やキムチの店に飛び込むようなことがないように、見守ったりしています。最近、こういう人たちの数の方が多くなってきています。オウム事件のときに頑張ったジャーナリスト、有田芳生さんなども、張り付いて警戒しています。ようやく朝日が記事にしましたが、もっとメディアは大きく、また長く取りあげ、社会に警報を発していくべきでしょう。
 
 
◆外に“敵”みつけると噴き出す国家ナショナリズムの暴走
 
外に敵を見つける。そして、そこに向かって国家ナショナリズムをどっと噴出させる。そういうことが起こりやすくなっている。安倍さんのメンタリティーとか思想的体質は、そういう動きにブレーキをかけるものではない。反対にそういう動きを勢いづかせるところがある。その流れの先にある終着駅として彼が想定している改憲というものを考えてみると、容易ならない情勢がいま日本に生じつつある、という気がします。そういう流れの底の部分では、いろいろなことが起こっている。だれもが独りではこの社会に落ち着いてはいられない。なにかの団体、集団に属し、その組織のルールや掟に従うと、ようやく落ち着ける。しかし、集団の中では、イジメや体罰が横行し、不安が絶えない。もっと大きな一つの力にくるまれないと安心できない。そういうところに国家ナショナリズム大きく立ち現れると、それが改憲という政治イベントとも結びつき、日本的なファシズムができあがってくるのではないか、と心配になります。
 国民の生活が厳しくなっていく。仕事もない。そういうことから生じる不安や、社会から排除されているような疎外感も、人を集団への帰属に追い立てます。どこかの集団に入りたいと思う人間が増える。強力な集団に入ってその掟に従うことになると、束縛よりも自信と責任感に満たされ、使命感さえ湧いてくる。1920年代末、第一次大戦敗戦後の傷が癒えぬうちに、大恐慌に巻き込まれ、深刻な経済危機に見舞われたドイツでは、民主的なワイマール体制が崩壊、その割れ目からナチが出現、行き場のない孤独な人たち、先輩世代に失望している若者たちなどを急速に集め、活気のある、戦闘的な政治集団を形成していった。敵に不足はなかった。敗戦ドイツに払いきれない賠償など、過酷な懲罰を科した戦勝国、東方に出現した危険な共産国・ソ連、つねにドイツを裏切るユダヤ人。今日本でこれと似たような変化への機運をつくり出す決め手は、安倍政権より、むしろ維新の会の方が大きく握っているかもしれません。両者の合体は紛れもなくその危険を飛躍的に大きくするでしょう。そういう動きをこの段階でどう食い止めるかが、大きな問題になっている、と考えます。
 
 
4.7月の参議院選を勝つ―マスコミに過ちの歴史を繰り返させない 
◆7月の参議院選の争点 
もし7月の参議院選挙で護憲勢力が負けたら、どういうことが起こるでしょうか。負けるという意味は、維新の橋下氏の露骨な言い方のなかに発見できます。「私たちが公明党の代わりをする。私たちは既得権を打破する党だから、今の自民党の既得権のあり方は許さない。すなわち自民党に打撃を与える。だけど自民党がその気になれば、我々維新の会、自民党、みんなの党が集まって、参議院選挙で3分の2以上の議席を取り、参議院での憲法改正の発議権を獲得する勝利が収められる。そうなれば、この勢力はすでに衆議院では3分の2以上の議席があるから両院で第96条を変え、すぐ過半数で改憲発議が可能となるようにすることができる。こういうやり方をすれば、公明党はいらない」といっているわけです。
 そういう形になっては、私たちの負けです。そうさせないためにどうするか。彼ら以外の勢力を全部糾合し、参議院選で彼らに3分の2以上は与えない、ということができれば、当面の勝利を確保、良く戦えたといえるでしょう。しかし、彼らに過半数でも許せば、それはかなり危険です。自民党、維新の会、みんなの党などで過半数になると、通常の法律決議で自衛隊法などをいじり、外堀をいろいろ埋めてくるということが考えられるからです。そういう意味では、できれば過半数も取らせたくない。だが、なんとしても3分の2以上は取らせないことが必要です。この点で負けると、この先5年10年どころか、おそらくもっと長い期間、日本は歴史的に大きなダメージを受け、特にアジアの国々の信頼を失い、そこから立ち上がるのも難しくなる。そういう心配がある。
 もう一つ、都議選も重視する必要がある。都議会への進出を維新の会が狙っています。維新の会は都議選で恐らく20議席ぐらいの獲得を狙っている。都議会で一番多いのは民主党で42名です。与党の自公は、自民党が40名、公明党が20名で、計60名です。そこに維新の会が20名入ってきたら、それは、参議院選で目指す勝利に対する、前哨戦における勝利といった成功を許すことになります。公明党を排除しても自分たちがその分埋めるから都議会は大丈夫だ、といえるわけです。追い込まれる公明党もかなり危機感を募らせ、96条の改正についてはそろそろ自民党と共同歩調を取るか、という雰囲気になりつつある。公明党というより創価学会の婦人部は、護憲でよく頑張っています。そういうところがどこまで頑張れるのかという問題があるにはありますが、やはり表向きの権力政治の舞台では、政党同士の上層部の野合みたいな部分があり、公明党はもうかなり危ない、と思うべきでしょう。維新の会は、大阪では散々勝手なことをやってきましたが、首都圏エリアではそんなことは許さないぞと、突っぱねていく必要があると思う。
 
 
◆7月の参議院選で勝利するために  
こういう戦い方をするとき、既存の政党も、今までのやり方だけで選挙をやっていいのかということを、問われることになります。私は、今までどおりではだめだ、危ない、と思います。例えば、社民党でも共産党でも、選挙をやるとなると、それは当然のことなのですが、自党の支持者をどれだけ増やし、自党の票をどれだけ多く稼ぐかということになる。けれども、敵が連合勢力をつくって一緒に攻めてくるときに、今までどおりのやり方で対処するのでは、勝ち目がなくなる。もっとたくさん味方になってくれそうな勢力の見つけ方、あるいは作り方を勉強し、敵を除く残り全部で一緒にたたかえるような体制を構築する必要があるのではないか、と思います。たとえば、滋賀県の嘉田知事が立ちあげた未来の党をどう評価したらいいのでしょうか。総選挙の時は小沢さんのところ、生活が第一と組んで目算が狂い、おかしなことになりましたが、未来の党そのものには、まだ市民のあいだでかなりの人が期待をよせているのでは、と思います。それを見限るのはもったいない。
それから今、緑の党みたいな政治集団があちこちで生まれていますね。それらは、綱領を掲げ、政党的な首尾一貫性を備えているというより、重要な市民的要求を大きな政策課題として掲げ、政府に働きかけてその実現を目指す、というようなスタイルの政治運動団体です。たとえば、原発問題では首都圏反原発連合=反原連が好例です。ミサオ・レッド・ウルフさんが代表となっていますが、どちらかといえば世話役です。彼ら彼女らは党派的な政治勢力の介入を嫌いますが、自分たちの運動が政治的意味を持っていることは、ちゃんと理解しています。そういうところと、政策課題ごとに協力し、一緒になってたたかう工夫が必要なのです。もう政党とその選挙だけという組み合わせで政治闘争をつづけようとしても、目算も成算も立たなくなっているのです。
市民が自分たちの生活の問題、身の回りの細かな問題、あるいは社会的な問題について危機感を抱いていることがあれば、既存の政党は自分のほうからそっちに近づいていき、そこにあるおかしなことを引っくり返したり、危険な状況に陥るのを防いだりし、みんな一緒になって望む方向に進んでいこうと呼びかけ、みずから先頭に立って問題の解決に力を尽くしていくことが求められている。そのような運動のなかでどれだけ多数の市民を結集できるかが、今度の選挙の成否を分けるカギになる。思い切った取り組みが必要になるでしょう。たとえば、議員定員2名の小選挙区で、自公が調整し、候補を1名に絞って出してくるとき、これに対して社民党、共産党、未来、無所属の反原発派、維新、みんなの党なども、それぞれ一人ずつ候補を立てれば、どういうことになるか。維新・みんなが組めば、ほかは全部負け、改憲派・原発推進派に二つの議席を独占させる結果に終わる危険が大きい。逆に社民・共産・未来・無所属反原発派が候補を一人に絞ることができれば、1議席を確保する可能性が生まれる。こういうことがやれるか否かが、今度の選挙では現実に、非常に重要な問題になっているわけです。
そういう勢力をどうやって作っていったらよいか。まず統一勢力の呼び方をどうするか。右翼、ファシズムに対して「護憲リベラル」はどうか、という声を耳にします。早稲田の水島教授は「立憲リベラル」のほうがいい、とおっしゃっていました。リベラルにはネオリベラル=新自由主義を連想させるところがあるので嫌いだ、という人もいます。もっといい言い方がないか、考えています。また、そういう集団的な流れをつくっていくとき、その運動に相応しいどんな人、あるいは人たちに、運動を呼びかけていく「顔」になっていただくかも大事な問題です。「九条の会」の成功も、あの9人の方々のお顔がそろったことに負うものでしょう。最近の経験でいえば、2008年暮れの派遣村活動で名誉村長を務め、その後、日弁連(日本弁護士連合会)の会長となった宇都宮健児さんが都知事選候補となったとき、サラ金・貧困問題、解雇反対、反原発、東京五輪招致反対などなど、さまざまな市民運動団体の関係者が勝手連的に動き、各方面の著名人の賛同を募って「顔」をつくり、その人たちから寄せられたメッセージをネットに発表しつづけ、また「顔」の方を招いていろいろな支援集会も開催、投票協力を呼びかけました。その結果、猪瀬候補に負けはしましたが、知名度を高めるうえで大きな力を発揮することになりました。7月の参議院選挙にも、参考になるたたかい方ではないかと思います。広範な市民に結集を呼びかけようとするとき、今はつぎの4つの課題が大きな柱になるのではないでしょうか。
 
 
◆広範な市民の結集を呼びかけるための4つの課題
1.「脱原発」を前に進める―放射能洩れのまま東京五輪が呼べるか
 
「脱原発」は依然として大きな柱です。ただし、これを単純に、あるいは抽象的に「反原発」という言い方の繰り返しで終わらせたくない。「脱原発」という言い方のほうが、その先で何をやるのか、何を目指すのか、かち取るものは何なのか、を示唆するものがあるので、これを積極的に使いたい。そう思っていた矢先、3月18日に福島第一原発の1号機、3号機、4号機の使用済み燃料棒プールの冷却水を送る装置が、変電所の突発停電で2日間止まる事故が起きました。肝が冷えますね。政府は例によって、大したしたことはない、という。しかし、続報で写真を見ると、変電所といってもトラックの上に置かれただけの仮設パネルの変電装置で、それにキャンバスの覆いがしてあるだけ。そこに剥き出しの電線がつないであるだけ。開けてみたらネズミの死骸があり、これが電線を囓ってショートさせたらしい、という話です。よくそんな状態に放置してきたものです。また、汚染水の導水管も剥き出しのホース群で、ところどころ絡み合ったりしている。一番恐ろしいのは、海に流せない高濃度の汚染水をタンクに溜めているけれど、発電所の敷地をはみ出し、周りの林まで切った広大な用地に広がるタンクが900本あるということです。そのうちの3割、270本のタンクは継ぎ手に溶接が施してなく、ボルトで留めただけの仮設の簡易タンクだという。
このタンクたち、2020年の東京オリンピックまで、完全に保全できますか。その前に震度6ぐらいの地震がきたら、いくつも倒れたり壊れたりするかもしれませんよ。野田首相は辞める少し前、福島第一原発の事故は収束した、と宣言しました。ふざけた話です。日本人は信じるかもしれませんが、外国人は誰も信じていません。フランス人とアメリカ人はとくにそうです。フランス政府は、「3・11」のあと、すぐチャーター機を差回し、在日フランス人を乗せ、帰国させた。東京・麻生のフランス大使館は京都に引越し、今もそのままです。アメリカが「ともだち作戦」を迅速に実施したのも、日本のためというより、4号機の燃料貯蔵プールが倒壊したら、もう東京はおしまいなので、同胞救出の意味のほうが強かった。彼らの状況認識は基本的に今でも変わっていない。今度の危険な停電事故の発生は、その認識を裏書きするものです。タンクは今後も減ることはなく、増えるばかりでしょう。危ないタンクのことを知ったら、7年後の東京オリンピック開催が決まっても、見に来る外国人客はろくにいないのではないでしょうか。危険な東京に近づきたくないでしょう。
政府も東京都も、東京オリンピック招致に血道をあげる前に、福島第一原発のこのような危険を全部無くせ、もう完全に安全だという状態を早くつくり出せ、といいたい。そのことが最優先の課題です。参院選に先立つ都議選も、このような問題をはっきりさせてたたかう必要があります。市民は敏感に反応し、また共感するはずです。
 
 
2.沖縄を取り戻す―日本全体の独立を実現してから4月28日を祝え
 
つぎの柱は沖縄です。日米両政府が沖縄にいうことが、ぐるぐる変わるけれど、結局は沖縄の基地負担を減らすどころか、増やすばかりなのだから、ひどい。1995年、米兵の女子中学生暴行事件が発生、島ぐるみの抗議運動が起こり、両政府とも、米軍基地負担の軽減を迫られることになった。そこでアメリカの国防省、国務省の要人が来て基地の実情を調べることになった。ラムズフェルト国防長官は普天間基地をみて、その危険な状態に驚き、橋本内閣と協議し、96年に普天間返還の計画が決まった。ところがその後、普天間基地はただ返還するのでなく、名護市の辺野古に移設するということになった。しかし、辺野古の住民がこれに強く反発、粘り強く反対運動つづけてきたため、その後17年目になっても辺野古移設は実現させていない。ところが今回、安倍首相は、沖縄の嘉手納基地から南にある、牧港補給地区や那覇軍港など六つの基地も返すことをアメリカに約束させるといいだした。しかし、これで負担軽減が加速されると思いきや、この約束の実施は普天間の辺野古への移設ができてからで、おおむね2022年からのことになる、というのだ。こんな酷い話は初めてだ。辺野古移設ができなければ、ほかの基地は返さないという条件が、抱き合わせになっている話ではないか。頑張る辺野古住民がほかから恨まれる仕組みになっている。沖縄のせいにして、アメリカはずっと居座るつもりらしい。
危険な垂直離着陸機、オスプレイ配備も、全島民、県議会全党議員の反対を押しきって強行したばかりです。そのうえで、普天間の辺野古移設と嘉手納以南基地返還のセット条件で沖縄の人を追い詰める。そして、さらに4月28日、サンフランシスコ講和条約発効の日を「主権回復の日」として記念式典を催すことにし、沖縄県民の神経を逆なでする。確かに安倍さんにとっては、この日はめでたいんです。戦犯だったおじいちゃんの岸信介はすでに巣鴨拘置所は出ていましたが、公職追放の身分でした。しかし、講和条約発効とともに、晴れて追放を解かれることとなりますから、めでたい。でもそんなことは家で祝えばいい。しかし、沖縄は反対せざるを得ない。この日以前、日本全島が被占領地であった時代は、沖縄もその仲間だったが、この日からは、本土4島は独立を回復したのに、国と国の新しい約束の下で沖縄は切り離され、米軍の占領下に放置されたのですから。沖縄県民はこの日を「屈辱の日」と呼んでいますが、当然です。日米安保をそのままにし、日米同盟最優先を唱える限り、この状態がつづくんです。もう日米安保を根本から見直し、沖縄の人たちと一緒に独立するという覚悟を、日本全体が持たねばいけないんですね。そういう中でTPPの問題もあわせて考える。一番根本的なところから考え直すということが、今求められている。そのことを参議院選挙の大きな問題にしていく必要がある。
 
 
3.日本の「99%」の生活を立て直す―金融緩和で儲かるのは「1%」だけ
 
 金余りの今、グローバルなギャンブラー達が暴れ回り、荒稼ぎをしている。だが、それは世界の僅か「1%」程度の金持ちだけで、それがだれなのかは「タックス・ヘイブン」に隠れていたりするので、わからない。正体は見せない。顔も見せない。税金も取られない。そもそもお金のやり取りも分からない。だけれど、世界経済を混乱させていることは確かなのです。EUの金融危機、通貨危機は彼らのアナーキーな行動が引き起こしているものです。ひところのギリシャ、最近のキプロスの経済危機の構造も同じです。いまキプロスではATMによる以外は、本人でもお金がおろせない。銀行が少ししかお金を入れてないからです。たくさん入れておくと、銀行も信用できないので、みんなが自分のお金をおろしてしまい、いわゆる取り付け騒ぎが起こってしまうからです。こういう騒ぎの元凶は、キプロスもちっぽけなオフショア、タックス・ヘイブンだったからです。キプロスは小さな島の南半分だけです。北半分はトルコ領です。キプロスにも通貨がありましたが、2008年にユーロに変わりました。ここをタックス・ヘイブンとして最近利用しだしたのがロシアの金持ちです。ルーブルで持ち込んでも、ユーロに換えて貯めておいてもいい。そこからユーロで外国に投資することもできる。そういうことがロシアの中央政府に隠れてできる。ところが、ユーロ圏全体で危機が進行し、キプロスに一番大きな影響力をもつギリシャの経済危機が深刻さの度合いを増すばかりなので、ロシアの金持ちがキプロスに預けておいたカネをいっせいに引き揚げだした。それがキプロスに危機をもたらしている。ギャンブラーたちはそういう変化はけっして嫌いじゃない。変化こそ機会、腕の振るいどころだからです。しかし、貧乏人には困ったことになる。職がなくなる。物価が高くなる。
 世界中の金余りの状況は、一握りの世界の「1%」の大金持ちには、けっして不都合なことではない。国によっては、こういうギャンブラー達を大儲けさせ、彼らと結託して世界の金融支配力を掌握しつづけようとする政府もある。代表的なのがイギリス。ロンドンの金融街、シティはそれ自体がタックス・ヘイブンです。アメリカもそう。「99%」の貧乏人を代表するオキュパイ運動が敵と目指す「1%」の本拠、ウォールストリートもタックス・ヘイブンだ。この両国の人も含め、世界の「99%」は、もうそういう関係に気付いている。そういう状況から抜け出さなければいけないとも考えている。とくにヨーロッパははっきりしていて、国際的な金融取引に、カネが国境を越える時点で課税する制度を実施することを、EUとして決めました。その税収入が目当てでなく、このシステムで、カネを動かすものの正体を世の中に明らかにさせ、それぞれの主権国家が彼らの所在、ビジネスの実態を捕捉できるようにすることが狙いです。日本ではこういう動きについてもちゃんとした報道がされていません。しかし、こういうことでも、そのあり方を全体として見直し、根本から変えないとだめなんです。アベノミクスの見せかけの成功なんかに騙されているようでは、話になりません。政治の根本のつくり変えも、国際的にやっていく必要があるのです。
 
 
4.立憲主義を一層発展させる―「護憲」で止まらず、「活憲」目指す
 
 最後に、立憲主義というものを、もっともっと発展させていくことを、大きな声で訴えていく必要がある。単なる九条護憲にしがみつき、この条項を受け身で守る、今の条項を守っていく、というところから大きく踏み出したい。憲法を変えさせないというだけでなく、今の憲法を積極的に生かして使っていくことを訴えていく。憲法は私たち一人一人を守ってくれています。その憲法が守ってくれている具体的な内容を、要求として主張していく必要があるのだと思います。特に人権がますますなおざりにされる傾向が募っており、むしろそれが踏みにじられるような場面も多くなっているので、問題は沢山出てきています。私たちが訴えること、主張すべきことはたくさんあるのです。
例えば、政府が法制化を進めている「秘密保全法」は、公務員に職業上知ることとなった秘密を守らせるための法律とされていますが、上司の不法行為の告発は違法な秘密の暴露になるのかなど、曖昧な点が多い。もっと重要なのは、秘密を法に反して漏らした公務員と通じた市民、報道の取材記者も訴追の範囲に入れる仕組みになっている点です。「公益」「公の秩序」を阻害する場合は、言論報道の自由・知る権利も制約されるとするのが、自民党の改憲草案ですが、この法案はこの草案の先取りです。こういう仕組みで国家が市民に脅しをかけるのは、情報公開制度への逆行であり、立憲主義の理念に反するものです。これは、公務員任せにしておけばいい問題でなく、広範な市民が反対すべき問題です。
さらにはマイ・ナンバー制、統一個人番号の制度化と実施という問題もあります。政府のこの制度の導入理由は、納税やいろいろな社会保障の番号が同一化され、行政サービスも受けやすくなり、個々の市民の利便が増すというものですが、とんでもない話です。確かに、住民票を取ったり、税金を納めたり、健康保険、厚生年金の事務のやり取を考えると、便利な点はある。しかし、この制度の最大の問題点は、政府が圧倒的に、また一方的に、多岐にわたる大量の個人情報を掌握する一方、その利用状況が、肝心の当該個人、本人には事実上、まったく分からなくなるというところにあります。日本の個人情報保護法は、国が権限を掌握して私人間の情報のやり取りを監督し、不心得ものが個人情報を侵害していたら、それを取り締まる、という組み立てのもので、まるで狼に羊の番をさせるようなものです。政府の不当な個人情報の利用は、防ぐことも摘発もできない。日本的個人情報保護法なのです。
欧米の個人情報保護法は、本人が自分の情報を守る―特に政府が不正に自分の情報を保有したり、利用したりするのを防ぐためのものとしてつくられている。個人情報保護法には、例えば精神病の病歴は、行政機関、教育機関、警察などに渡してはいけないと規定してある。しかし、それがこっそり病院からよそに移されているかもしれない。そういう疑惑があるとき、元の情報所有機関に対しては自分の情報の取り扱い記録を、移送先と思われるところには自分の情報の有無、有る場合はそのファイルを、それぞれ開示するよう、本人は請求できるし、当該機関は請求に応えなければいけない。これが個人情報保護法の基本的な構造なのです。そこには自己情報コントロール権という人権概念がしっかり埋め込まれている。また、個人情報を守る方法が、隠蔽ではなく、情報公開の適用拡大や徹底化という発想に基づくものである点も、日本と大違いです。こういう制度の裏打ちがないままのマイ・ナンバー制は、泥棒にカギを全部預けるようなもので、不用心の最たるものです。
それから、ようやく自民党が選挙をネットでやれるようにしようとしているが、これも危ない。利用可能なのは候補者と政党だけだというんです。アメリカのオバマ大統領選出の時も、韓国の盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領選出のときも、市民たちが自由にメールを使い、呼び掛け合い、自分たちの大統領を選んだ。しかし、こういう使い方は許されず、今までの選挙の枠内で候補と政党だけが使える、というのが解禁の骨子です。政治家が、俺たちだけが使うんで、他の奴はダメだ、使ったら選挙違反だというのは、とんでもない話です。
こう考えてくると、立憲主義に肉付けしていくためにやれること、やるべきことはたくさんあることがわかります。そういう実践を重ねていくことが、憲法を生かしていくということではないでしょうか。まさに市民運動の生き生きした課題です。
憲法9条と25条との結びつきを、いろいろと具体的に追求してゆき、平和的生存権の実質を豊かにしていくことも、重要課題です。どんな人間にも健康で平和な生活をする権利があることを具体的に保障させていく必要があります。例えば、生活保護基準の引き下げなどは、とんでもない話です。生活保護だけの問題じゃない。この基準が下がれば、児童手当とか就学補助とか、その他の低所得者の支援を目的とする補助給付の基準も引き下げられ、最低賃金も連動して下げられるでしょう。ありとあらゆるところに影響し、バリアーを高くして公助を待つ人を切り捨てることになる。これでは社会の中の諍いを荒々しく掻き立て、市民の平和的な生存基盤を損ねてしまう。かつて「もう戦争にしか希望がない」と述懐して反響を呼んだ青年フリーターがいましたが、そういう声が若者の共感を呼ぶようなことにはさせてはいけない。立憲主義がゆきわたる社会は、本当の希望を持つ若者の声が伸び伸びと響き合うものです。
最後に資料4の[2013年1月1日読売新聞社説『政治の安定で国力を取り戻せー成長戦略の練り直しは原発から』]をご覧ください。これは、元旦の年頭社説ですが、渡辺恒雄氏直々の執筆ではないかという気もします。文中至るところで、例えば脱原発の問題でも、沖縄の問題でも、それから憲法改正の問題でも、読売新聞が今の自民党のやること、考えていることすべてを応援している様子がよくわかります。ある意味では読売ほど首尾一貫している新聞はない。資料5の[3月23日・読売新聞社説『移設実現へ最大の努力を尽くせ』]は、普天間の問題を取り上げている。安倍が辺野古移設をやるというと、すぐさまこれに呼応して「移設実現へ最大の努力をせよ」です。沖縄側のいうことなんぞ構っちゃおれんというわけです。問題は対米関係と日本の安全保障だけです。こういう新聞をのさばらせてはいけない。読売新聞は、選挙の対象となるものではありませんが、こういう社説が出さなくなるように、我々はもっと大きな声を上げていく必要があります。私の話は1時間の予定でしたが、1時間30分になってしまいました。すみません。清聴ありがとうございました。
 
 
 
 
桂 敬一氏プロフィール
 
1935(昭和10)年・東京生まれ。日本新聞協会職員、日本記者クラブ総務部長、日本新聞協会研究所所長などを歴任、1988(昭和63)年から東京大学新聞研究所教授。その後、立命館大学などにも勤務、2011(平成23)年3月、立正大学講師を辞任、大学教員生活を終わる。この間、マスコミに関する著作・評論活動にも従事。また日本ジャーナリスト会議会員としてジャーナリスト運動に参加、2005年からは「マスコミ九条の会」の呼びかけ人として会の活動に専
 
 
 
念。2009年3月からは「沖縄密約情報開示訴訟」(最高裁で審理中)に原告共同代表として参加。主な著書:『現代の新聞』(岩波新書・1990年)、『明治・大正のジャーナリズム』(岩波ブックレット・1992年)、『日本の情報化とジャーナリズム』(日本評論社・1995年)、『21世紀のマスコミ』(共編著全5巻・編集代表。大月書店・1997年)、『新訂 新聞学』(共編著。日本評論社・2009年)など。